ISBN:4163677003 単行本 内田樹 文藝春秋 2005/11 ¥1,600
靖国問題や日中・日米関係などについて論じた「? 問いの立て方を変える」に特に感銘を受けて色々と考えていたところに、首相が靖国参拝をほのめかしたとかで、非常にタイムリーな思いがした(「15日ならず、いつ行っても(中国などは)批判する。いつ行っても同じだ」というコメントは凄いですね)。
最近ようやく政治や国際情勢に人並みに興味を持てるようになった私だから、本書でも繰り返し問われている「何故反日感情を煽るのが明白であるのにあそこまで執拗に靖国参拝を繰り返すのか?」という問題に対しては、公人ではなく小泉純一郎という一個人の、偏執的な思い入れの勢い余った発露では?程度の発想より先に進めずにいたのだけど、「靖国再論」という項で著者が指摘してる、この問題の背景には日米のある共謀関係があり靖国参拝は世論を掌握するためのスイッチとして機能させられているのではないか…という論の展開の仕方には、おおーと驚く。その他の部分も説得力はもちろんのこと探求心や「世界に開いていく」力が感じられて、良質な知を味わえた充実感があった。
「? 武術的思考」内の「武道家から見る改憲論」も良かった。
(…)戦争はあくまで「不祥」の、すなわち「二度と起きてはならない災厄として観念さ
れなければならない。二度と起きてはならない事況に備えて、できるだけ使わずに済
ませたい軍事力を整備すること。この矛盾に引き裂かれてあることが「兵」の常態で
ある。勝たなければならないが勝つことを欲望してはならないという背理のうちに立
ちつくすのが老子以来の「兵の王道」なのである。
私は憲法九条と自衛隊の「併存」という「ねじれ」を「歴史上もっともうまく機能した
政治的妥協のひとつ」だと考えている。(…)
改憲の必要はないという著者の主張を他のテキストで読んだ記憶があるけれど、著者の言う「整合性」に無自覚のうちに染まっていた私は、この「ねじれ」の意義を認めるどころか意識すらした事がなかったんだなあと気付かされる。これは『9条どうでしょう』も読んでおくべきか。
ブログに掲載された文書にエディットを加えたのが本書なので、内容は他にもリスク社会や記号論、レヴィナスの他者論などばらつきがある。そのばらばらの根底に一貫してある著者の姿勢からは、全肯定にも全否定にも安易に走らずに地道に吟味を重ね、双方を柔らかく内包し折衷する思想や思索を保つことの尊さを思った(そういえばこの人フェミニストが嫌いなんだっけ)。私も硬直状態に陥らず、自分と異なるものに厳しく門を閉ざさず一旦は柔らかくキャッチし保留にできるような緩衝材のごときものを自分の中にイメージしていきたいものです、できることなら。
靖国問題や日中・日米関係などについて論じた「? 問いの立て方を変える」に特に感銘を受けて色々と考えていたところに、首相が靖国参拝をほのめかしたとかで、非常にタイムリーな思いがした(「15日ならず、いつ行っても(中国などは)批判する。いつ行っても同じだ」というコメントは凄いですね)。
最近ようやく政治や国際情勢に人並みに興味を持てるようになった私だから、本書でも繰り返し問われている「何故反日感情を煽るのが明白であるのにあそこまで執拗に靖国参拝を繰り返すのか?」という問題に対しては、公人ではなく小泉純一郎という一個人の、偏執的な思い入れの勢い余った発露では?程度の発想より先に進めずにいたのだけど、「靖国再論」という項で著者が指摘してる、この問題の背景には日米のある共謀関係があり靖国参拝は世論を掌握するためのスイッチとして機能させられているのではないか…という論の展開の仕方には、おおーと驚く。その他の部分も説得力はもちろんのこと探求心や「世界に開いていく」力が感じられて、良質な知を味わえた充実感があった。
「? 武術的思考」内の「武道家から見る改憲論」も良かった。
(…)戦争はあくまで「不祥」の、すなわち「二度と起きてはならない災厄として観念さ
れなければならない。二度と起きてはならない事況に備えて、できるだけ使わずに済
ませたい軍事力を整備すること。この矛盾に引き裂かれてあることが「兵」の常態で
ある。勝たなければならないが勝つことを欲望してはならないという背理のうちに立
ちつくすのが老子以来の「兵の王道」なのである。
私は憲法九条と自衛隊の「併存」という「ねじれ」を「歴史上もっともうまく機能した
政治的妥協のひとつ」だと考えている。(…)
改憲の必要はないという著者の主張を他のテキストで読んだ記憶があるけれど、著者の言う「整合性」に無自覚のうちに染まっていた私は、この「ねじれ」の意義を認めるどころか意識すらした事がなかったんだなあと気付かされる。これは『9条どうでしょう』も読んでおくべきか。
ブログに掲載された文書にエディットを加えたのが本書なので、内容は他にもリスク社会や記号論、レヴィナスの他者論などばらつきがある。そのばらばらの根底に一貫してある著者の姿勢からは、全肯定にも全否定にも安易に走らずに地道に吟味を重ね、双方を柔らかく内包し折衷する思想や思索を保つことの尊さを思った(そういえばこの人フェミニストが嫌いなんだっけ)。私も硬直状態に陥らず、自分と異なるものに厳しく門を閉ざさず一旦は柔らかくキャッチし保留にできるような緩衝材のごときものを自分の中にイメージしていきたいものです、できることなら。
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