大いなる助走

2006年6月10日 読書
ISBN:4167181142 文庫 筒井康隆 文藝春秋 2005/10/07 ¥650

「ビーバップハイヒール」という関西ローカル番組にレギュラー出演しているのが気になるなあというのはさておき、先日まで筒井作品ばかり立て続けに図書館で借りていた。連載されたのが昭和52〜53年なので現在と状況がだいぶ違う部分もあるけれど、パロディ小説としてただただ面白く読んだ。

「それならいったい店のことをいつあなたに相談したらいいのです。いつ相談したって、店のことはお前にまかせてあるとしか言わないじゃないの、そんなら店のお金なんかあてにしないで。お店なんかないものと思ってよ。あんたはブンガクになっちまったけど、わたしはブンガクなんかになんかまだなっていないし、なりたくもないもんね。もうお金がないのよ。お金がなくなったら店が潰れるのよ。そしたらあんたはどうするつもり。いいえ。あなたは例のブンガクなお友達がたくさんいるから助けて貰えるかもしれない、ずっとブンガクなままでいられるかもしれないけど、わたしや瞳はどうしたらいいの。(中略)一雄の同人誌仲間が集まり、小さな裏庭に面した、一雄の書斎にもなっている六畳の座敷で合評会をやり始めた時など、夫がそういう時だけはいつもの横暴さを見せず悪妻に悩まされているおとなしい夫という殉教者ポーズをとるのをいいことに、せいいっぱいのふくれっ面や十回以上催促されるまでは茶を出さぬことでブンガクへの無言の敵意を示したりしたが、冷遇に馴れているのかブンガクな人間どもにはあまり通じないようだった。」

読みながらいくつかの描写を個人的な話にいちいち結び付けてしまう。私は実用面で何の役にも立たないものに熱中するのは結構好きな方だ。私も妹も、そこに求めるものは違えど、共通して(思いがけず)文学がらみの専攻を希望する結果になったけれど、文学に必要以上にのめりこむのって時に親不孝な行いなのかもということが身に近しいものとして痛切に感じられたのは、先日母メールを読んだ瞬間がもしかしたら初めてだったかもしれない。

自分を振り返って、中庸をひたすら心に言い聞かせる傾向は年々強まっている感じがするのだけど、そのあまりに自分で自分がなんとなく居心地悪くもなっている。どちらかの極めがけて破滅的なまでにまっしぐらに走ってみたいよなあと思いはするものの、それだけの思い切りも持てないでいるのだった。

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繭

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