ISBN:4314009586 単行本 斎藤 美奈子 紀伊国屋書店 2004/02/18 ¥1,680

小説を、ストーリーや人物描写や構成などの視点から見るのではなく、そこに登場する商品の描かれ方に着目するという切り口で論じられているのが新鮮で面白く読めた。ファッション、食べ物、ホテル、音楽など。久々の文芸評論とかで、いつもの歯に衣着せぬ口調がおさえられている。そのためか一読した感じでは物足りなく思ったが、よく考えるとそれはそれで良いなと思う。
最後まで気にかかったのが、ここまできれいに類型化できるものかという点だ。例えばファッション小説は三つのパターンに分類できるといったような論の進め方で、なるほどなるほどと感心する一方で、もしかしたら結論が先行している事はないだろうかと疑いの念を頭のどこかに置いて、賛同しすぎずできるだけ冷静に読もうとせずにはいられなかった。これは誰の本を読む時でもそうで、その著者の恣意的な視点が強く出すぎる事も時にはあると思うからだ。
面白いと思ったのは、ブランドイメージの固まっている商品が登場する小説の傾向とか、野球小説が何故小説に向いているかといった指摘で、確かにそうだなあと興味深く読めた。
でも『趣味は読書。』あたりの方が読後の充実感は上だったかな。

あまり関係はないが、9章「貧乏小説」のところの、読む事や書く事の意味について触れられてある箇所には強くうなづいてしまったし、本全体として見ても上手いまとめになっていると感じた。「人間の尊厳を取り戻すため」というのは多少言いすぎの感もあるし、意見が分かれる所だろうけど、私はそういった作業は生活の中から失われてはいけないと思っているのだ。
社会人となる日が近づいているせいか本当にしょっちゅう考える事だけど、仕事を始めたとしても私は実用性の全くない本を読んでいたいと思うからだ。実際にはくたくたに疲れきってそれどころではないかもしれない。だからさくっと読めるエンタメ系の本ばかりに流れるか(それも好きなんですけどね)、悪くすると全く読む気力がなくなるか、というかなり確実と思える予測を立てている。
でも本は読んでいきたい、役に立たないようなこだわりを捨てる事はできればしたくない、と改めて考えてしまったのでした。

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繭

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