幼年

2004年4月10日 読書
最近は福永武彦が好きで、全集をちまちま読んでいる。印象に残ったのが「幼年」で、子供の頃の感覚についての「就眠儀式」「夢の中の見知らぬ人」などと題された数ページずつの文章から成る作品だが(これも小説というんでしょうか)、それは思い出話のように過去を現在の世界に手繰り寄せ、回想として語られるのとは感触が違う。
空想や夢を、言葉によって明瞭に説明しすぎるのでもなく、浮かんだ端から消えるか消えないかのところ、意識がはっきりと捉えられるか捉えられないかのところをそのまま保って絶妙に書かれているように思える。「かすかな風の息吹のようなものが、私を吹きつけて過ぎて行く」ように時間軸の後方へ消え去るままに、不可逆的なものとして語られる。それはまるで過去を再び生きているような感じがあって不思議な印象を残す。

過去に読んだ「夢見る少年の昼と夜」も面白かった。「退屈な少年」という作品もあるが、子供に特有の観念や空想の世界とか、子供の中だけで通用する決まりごとみたいなものを描くのが上手いなあと思う。
どうしても観念的な作風の作家というふうに見てしまうせいもあるのか、私には愛を主題にした作品が最終的には自己陶酔的な面を含むように思えて、どこかなじまないというか完全にはのめり込めない(面白く読みはするものの)のだけど、全体的には心に静かに語りかける作品が多くて非常に好きな作家の一人です。この繊細さは現代にマッチしない部分もある気はしつつも。これからまたぼちぼち読んでいこうかなと。
あまり次々絶版にされると切ない。今でも広く読まれそうな作品もあるのに。

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繭

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