言葉の言い換えのこと

彼の家にサークルのチラシが無造作に置かれていたのを何気なく覗く。在学中にもいつも引っかかっていたことだけどそこには“「障害」者”という書き方をしてあった。学校では、その人に障害があるのではなく健常者目線でつくられた社会（そこに生きる人の意識も含め）の方にこそ、全ての人が自然に生きるのを妨げる障害が内在するのだ、みたいな考え方を先生方は唱えていた。「障害」が「者」にばかりかからないよう、両者を分離する意図がこめられているのだろうか。「障害」はその人にだけ閉じ込めておいていい問題ではない、というのには賛成できる、がどこか釈然としない。
私にはほかの学生がなんの異議も考察も示さずにその教えを唯々諾々となぞっていたことが歯痒かったし、ましてや「障碍者」（これ、携帯でも一発変換できることに驚き…浸透してるってこと？）や「障がい者」なんてナンセンスだと思ったけど、正しすぎる人達の前では口にしそびれた。その言葉の言い換えなんかは利点はある気もするが結局は瑣末な問題に思えたし、現実にたしかに在る生身の人達にかえって目をつぶる行為のように私には受け取られた。「障碍者」と言い換えてみたところで関わる側の意識が根底から変わるかどうかは（「害」なんて思ってませんよ、みたいなポーズを示すにはお手軽だけど）、結局はその人による。

で、学生時代の介護サークルで出会った何人かの人は、形式的な言葉の置き換えにとどまらずにその教えを実際の関わりの場で実践（変な言い方だけど）し、そして悩んでいた点で、学ばされたり考えさせられたりするところが沢山あったのだけど（私は、というと就職を口実に、逃げ出す同然の離れ方をしたのだから。本当はこんな事に言及する権利はない）、それにしても…と思うのは結局「認知症」って何だったわけ？という。国が机の上でなんやかんやと言葉遊びをしたところで、末端の現場が変わるわけないわけで。「痴呆」ってそんなに差別的か？よくないと言うのなら「ボケる」というのも言い直さなければならないと思うがどう言い直せばいいというのか？頭でっかちな考え方になることを自覚して言うけれど、「認知症」という言葉は「痴呆」という状態に完全には対応していないと思う。取りこぼしがかなりあると感じる。
そんなふうに私は頑固に認知症という言葉を使うまいとしているし（会議とか公式的な場では仕方なく言い直しているけれど…）、先輩職員や入居者の方自身に至ってはそんな置き換えがなされたことは良い影響はおろか悪い影響すらもたらしていないで、日々は黙々と流れている。「痴呆」は高齢者を侮辱する言葉だから云々などと不要なことはやってくれるくせに、もっと根底にかかわるようなやるべきことは他になかったですか？スマートな言葉に置き換えていったい何を封じ込めようとしているの？