ISBN:4163245200 単行本 文藝春秋 2005/12 ¥1,100

クワイエットルームとは、手に負えない患者を一時的に隔離する部屋の事。自殺する気のなかったODで意識を失い、精神病院へ強制入院となった「わたし」の視点で語られる、病院での2週間の日々を綴る物語。松尾氏は劇団「大人計画」の主宰者。

舞台を見る限りでは、へヴィーなテーマを笑いに変換ししかもそれが一層凄みを帯び、混沌とした数々の要素が結末に向けてまとまり恐ろしいまでのカタルシスを生むのが松尾氏の力量の凄いところなのだと思うんだけど、今回のはややライト寄りかという感じ。無茶苦茶とも言えるほどのものっすごい書き出しの割に後半にかけてありがちな展開を辿りだす部分などを見ると特にその思いが強まる(パサパサした事務的な喋り方でステンレスのような心の持ち主だと「わたし」に評されているナース江口が、後半で温情ある態度をあっさり見せるくだりとか)。読みつつふと考えたのが、例えば同じ病の中にいる人が読んで何がしかのプラスの力を得られるかどうかについてで、それはかなり謎。と言っても別にその目的で書いてるわけじゃないだろうし…。
ただ帯の「長い罰ゲームだったね」は、「わたし」に対して誰かがかける、自己憐憫的な色の濃い言葉なのかと漠然と思っていたら、違った。もっとさっぱりとした台詞だったので、その部分は少し印象的だった。

だけど例えば前に読んだ『宗教が往く』と比べるとインパクトも薄い気がする。なので芥川賞候補になった決め手がなんだったのかが気になるのです。初めて松尾氏の作品を手に取る人にとっては、一気にまくし立てられたかと思うとすぱっすぱっと切られたりねじくれたりという風に次にどう続くのかが予測できない独特の文体や、ところどころに散りばめられた比喩や笑いのセンスが面白いので、新鮮さはあると思う。「痩せてご飯睨んじゃって、睨み飯。よく生きてるな、あれ。睨んでてもカロリーとれないからなあ」とか好き。「好き」とか言っていいのだろうか。

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繭

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