ISBN:400310661X 文庫 岩波書店 2003/11 ¥630
若く貧しい詩人の孤独な青春時代を題材に、人がどれほど純粋な存在であるか、そしてどのように汚れていくのかをつづった、犀星文学のテーマの原点を成す作品集である。


表題作のみ読了。主人公がある居酒屋で客ともめ、ちょっとした騒ぎにまで発展するのだが、タイトルの「少女」はそこで働いている少女を指すのかと思ったらそうではなかった。丹念に熱心に描写されており後半にも引き続いて登場するので、この少女の事をもう少し追ってほしいように思ったというか、構成として不思議な気がした。

「純粋」という事について考える事が時々あるが、生活の方向へ着々と向かっている私は昔のような鮮やかな感銘を覚えはしなかった。主人公やその友人が芸術を志向しているためとはいえ(確かに感性が濁る事は危機だろうから)、生活とはその中で魂がだんだんと汚れていくものであって、与したくないものであると言うような立場から自分が離れつつあるからだろう。そういう私には彼らの自負や苦悩が美しくまたどこかむずがゆく思え、芸術青年よりは生活の中で何やかんやと折り合いつけつつ生きている人の話を読みたいように思う、普通の人にとっては生活に染まるのも蔑ろにするものではないよと、そんな風にだらだらと考えながら読んだ。

文体は大らかで、ぎすぎすと弁明や語彙をつぎ込まないのは魅力だと思った。清潔で品が良くて、佇まいがどこか慎ましい。

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繭

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