syrup16gの新作。実を言うとあまり今回期待してなかったんですよ。既聴曲が多いのに加え、ラジオで聴いた「実弾」に「何だこの変なコード進行の歌は」「肝心の一曲目がこれかい」とがっかりしたせいで。妙な曲調の割に歌をしっかり支えるドラムのお陰もあって、繰り返し聴いている内にかっこ良さがわかってきて今は割と好きだけど、それにしても一曲の中の構成が無茶な曲が多い気がするのはどうしたもんかなあと。メロディーメーカー五十嵐氏だからこそかなり期待しちゃってるわけで。
前半はあまり聴かないなあ、MySongは入れるべきだったのか?っていう。リアルも絶対シングルの方が良い。あの長さは必要だし、出口を見失って延々ループするようなあの緊張感がやや失われているのが拍子抜け。

歌詞読んでわかったけど「変態」って春に出没する人達の事ではないんですね。メタモルフォーゼか。でもそうだと思い込んで疑わなかったのはやっぱり書いたのが五十嵐さんだからかしら。それはさておきこの「変態」「夢」「希望」の流れが、タイトルの並びが何とも…と内心苦笑しつつも今作では一番繰り返し聴いてしまう部分です。特に「希望」は本当に良いよ!空気にすっと溶け込むようなギターのシンプルな音色や、黄昏時のようなやるせない美しさのメロディーが聴く度にしみじみ心に感じられて。ちょっとだるそうな所も好き。
シロップが表現する感情の中で私が一番好きなのが、こういう「切ない」「やるせない」という複雑さなのだと改めて感じ入る。ジャパンのインタビューも併せて考えると、人間の感情のありかたについて五十嵐さんはかなりまっとうな考え方をしているのではと思う。

シングルでは印象の薄かった「ハミングバード」もこうして終盤に置かれると、その静けさ物凄く豊かなものに響いてくる。歌詞も凄く穏やか。最後の四行が一番好きだ。

 セミだって花だって 悲しいと思える
 人間の感性を 自分は愛している   (「ハミングバード」)

「君だって僕だって優秀じゃないから/たまにはこうやって涙も出るよ」というフレーズが単なる気安くて薄っぺらい慰めや自己肯定ではなくて、人間の心のもっと深い所で発せられているように聴こえた。自分の無力さを自覚してでもどうする事もできずに、そんな自分の有様を苦く噛み締めて力なく笑っているような感じというか。でもそういう人の発する音楽はその分人間の温かさや滋味があるのではないかと思う。
でも「Your eyes closed」の歌詞は…こういう事急に歌われるとびっくりするなあ。今幸せなんでしょうか。

「上手にやれなくても構わないいつか/ツイてなかったって言って終わろう」(「実弾」)、「心拍数は上昇 失敗しないか心配ばかりで/大丈夫成功しようがすぐに忘れられます」(「メリモ」)みたいな歌詞が、今までのような諦めやどうでもよさよりも寧ろ半ば開き直りぎみの前向きさの表れに聴こえたなあこのアルバム。
「I.N.M」の歌詞然り、変化しつつあるって事なんだろうか。破れかぶれじゃなきゃいいけど。基本的な部分は変わっていないようにも思えるし、そうやって変遷していってどんどん面白いバンドになっていけば良いとは思う。何にしても「夢」のような重さが心地良い私としては、この変化に戸惑う面がまだ多いわけで。

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繭

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